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妊娠初期のつわり、どこまで我慢して大丈夫?―受診した方がよいサイン

「妊娠してから、気持ち悪くて食事が取れません」

「水を飲んでも吐いてしまいます」

「つわりはみんな経験するものだから、我慢するしかないのでしょうか?」

妊娠初期の診察では、このようなご相談を受けることがあります。

つわりは妊娠初期によくみられる症状ですが、その程度には大きな個人差があります。

食事の好みが変わったり、時々吐き気を感じたりする程度の方もいれば、何度も吐いてしまい、日常生活を送ることが難しくなる方もいます。

また、「妊娠中は薬を飲んではいけない」と考え、つらい症状を我慢している妊婦さんも少なくありません。

しかし、妊娠中でも使用できる薬は数多くあり、つわりに対しても治療の選択肢があります。

今回は、つわりがつらいときの過ごし方、医療機関へ相談した方がよいサイン、そして妊娠中に使用できる薬や漢方薬について説明します。

つわりはいつ頃から始まり、いつまで続くの?

つわりは、一般的に妊娠5〜6週頃から始まることが多く、妊娠8〜10週頃に症状が強くなる方もいます。

その後、妊娠12〜16週頃から少しずつ落ち着いてくることが多いのですが、個人差があり、妊娠20週頃まで続く方もいます。

また、「朝だけ気持ち悪い」というものでもありません。

朝起きたときに症状が強い方もいれば、夕方になるとつらくなる方、一日中気持ち悪さが続く方もいます。

反対に、妊娠していてもほとんどつわりがない方もいます。

つわりの強さだけで、妊娠が順調かどうかを判断することはできません。

食事が取れなくても、水分が取れていれば大丈夫?

つわりの時期には、普段どおりの食事ができなくなることがあります。

ご飯のにおいが苦手になったり、温かい料理を受け付けなくなったり、特定の食べ物しか口にできなくなったりすることも珍しくありません。

この時期は、無理に栄養バランスの整った食事を取ろうとするよりも、食べられるものを少しずつ口にすることが現実的です。

例えば、

・一度に食べず、少量ずつ回数を分ける
・冷たい食べ物など、においが気になりにくいものを選ぶ
・空腹になると気持ち悪くなる場合は、少量の軽食を用意する
・水やお茶など、飲めるものを少しずつ口にする

といった工夫が役立つことがあります。

食事が十分に取れない日があっても、水分が取れていて、尿が普段どおり出ており、体重の大きな減少がなければ、自宅で経過をみられることもあります。

ただし、水分が取れているからといって、どれほど症状が強くても我慢してよいわけではありません。

吐き気が強く、日常生活に大きな支障が出ている場合には、早めに相談してください。

「妊娠悪阻」とはどんな状態?

つわりが重症化し、十分な食事や水分が取れなくなって、脱水や体重減少などを起こすことがあります。

このような重症の状態を「妊娠悪阻(にんしんおそ)」といいます。

妊娠悪阻は、単に「何回吐いたか」だけで決まるものではありません。

例えば、

・水分を飲んでも吐いてしまう
・尿の回数や量が明らかに減っている
・尿の色が濃くなっている
・体重が短期間で減っている
・立ち上がるとふらつく
・体がだるく、普段の生活がほとんどできない

といった症状がある場合には、脱水や栄養不足が進んでいる可能性があります。

特に、妊娠前の体重から5%以上減少している場合は、注意が必要です。

例えば妊娠前に60kgだった方なら、3kg以上の体重減少が一つの目安になります。

ただし、5%減るまで受診を待つ必要はありません。

水分が取れない、尿が少ない、強いふらつきがある場合には、体重減少がそれほど大きくなくても受診が必要です。

こんなときは、次の妊婦健診を待たずに相談してください

つわりで受診するか迷ったときには、次のような状態が目安になります。

・水分を飲んでも吐いてしまい、十分に補給できない
・半日近く尿が出ない、または尿量が明らかに少ない
・短期間で体重が減ってきた
・強いめまいやふらつきがある
・吐き気が強く、仕事や家事などの日常生活が難しい

こうした場合は、次の妊婦健診まで我慢せず、医療機関に相談してください。

また、強い腹痛、発熱、吐血などを伴う場合には、つわり以外の病気が関係している可能性もあります。

意識がはっきりしない、立っていられないほど衰弱しているといった場合には、速やかな救急受診が必要です。

「つわりだから仕方ない」と、すべての症状を妊娠のせいにしないことも大切です。

つわりがひどいとき、病院では何をするの?

つわりがひどくなって受診した場合には、食事や水分がどの程度取れているか、体重がどのくらい減っているか、脱水の症状がないかなどを確認します。

必要に応じて血液検査や尿検査を行い、脱水や電解質の異常などを調べることもあります。

水分が十分に取れない場合には、点滴で水分や電解質を補います。

また、吐き気が強い場合には、薬を使用して症状を和らげることもできます。

症状が重く、十分な水分や栄養を取れない状態が続く場合には、入院による治療が必要になることもあります。

つわりは、ただ我慢するしかない症状ではありません。

妊娠中でも、使用できる薬はたくさんあります

「妊娠中は薬を飲んではいけない」

そう考えている妊婦さんは、意外と多いのではないでしょうか。

確かに、妊娠中には使用を避けた方がよい薬もあります。しかし、すべての薬が赤ちゃんに悪影響を及ぼすわけではありません。

妊娠中でも、これまでの使用経験や研究によって、安全性に関する情報が蓄積されている薬は数多くあります。

つわりに対しても、症状に応じて吐き気を抑える薬を使用することができます。

大切なのは、薬を使わないことが必ずしも赤ちゃんにとって最善とは限らないということです。

吐き気が強く、水分や食事が十分に取れない状態が続けば、お母さんの体調が悪化し、妊娠の経過に影響する可能性もあります。

そのような場合には、適切な薬を使用して症状を改善することが、お母さんと赤ちゃんの両方にとって大切になります。

もちろん、どの薬でも自由に使用してよいわけではありません。

妊娠週数や薬の種類、使用量、治療によって得られる効果などを考慮して判断する必要があります。

自己判断で市販薬を使用したり、反対に、持病の治療薬を急に中止したりせず、医師や薬剤師に相談してください。

つわりには漢方薬という選択肢もあります

つわりの治療には、漢方薬が使われることもあります。

漢方薬は、吐き気だけでなく、胃の不快感や食欲低下、胃もたれなど、その方の症状や体質に応じて処方を検討します。

つわりに対して使用される漢方薬には、例えば次のようなものがあります。

小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)

吐き気や嘔吐に対して使用される代表的な漢方薬です。

妊娠中のつわりに対して、古くから使用されてきた処方の一つです。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

吐き気に加え、のどのつかえ感や不安感などを伴う場合に使用されることがあります。

六君子湯(りっくんしとう)

胃腸の働きが弱く、食欲不振や胃もたれ、胃の不快感などがある場合に検討される漢方薬です。

五苓散(ごれいさん)

体内の水分バランスに関係する漢方薬で、嘔吐などに使用されることがあります。

このように、つわりに対して検討される漢方薬には複数の種類があります。

ただし、これらの漢方薬がすべての妊婦さんに適しているわけではありません。

また、つわりに対する効果については、薬によって医学的な根拠の蓄積に差があります。

漢方薬は自然由来の生薬から作られていますが、「漢方薬だから妊娠中でも必ず安全」というわけではありません。

妊娠中の使用には注意が必要な生薬もあり、妊娠中の安全性について十分な研究が行われていない処方もあります。

そのため、体質や症状、持病、ほかに服用している薬などを確認し、治療による利益とリスクを考慮して処方を決めることが大切です。

漢方薬も医薬品ですので、自己判断で購入して服用するのではなく、医師に相談してください。

また、水分が取れないほど症状が強い場合には、漢方薬だけに頼らず、点滴など必要な治療を受けることが大切です。

赤ちゃんへの影響が心配です

「こんなに食べられなくて、赤ちゃんは大丈夫でしょうか?」

これもよく聞かれる質問です。

軽度から中等度のつわりであれば、通常は赤ちゃんへの悪影響を過度に心配する必要はありません。

妊娠初期に一時的に食事量が減ったからといって、それだけで赤ちゃんの発育に問題が生じるわけではありません。

ただし、重症の妊娠悪阻が長く続き、体重減少や栄養不足が強くなる場合には、赤ちゃんの発育に影響する可能性もあります。

そのためにも、症状が重くなる前に適切な治療を受けることが大切です。

「つわりだから我慢しなければ」と思わないでください

つわりの程度には、大きな個人差があります。

同じ妊娠週数でも、普段どおり生活できる方もいれば、起き上がることさえつらい方もいます。

「ほかの妊婦さんは仕事に行っているのに」

「これくらいで病院に行ってもいいのかな」

と考えてしまうかもしれません。

しかし、つわりのつらさは、本人の気持ちの問題ではありません。

大切なのは、どのくらい吐いているかという回数だけでなく、水分が取れているか、体重が減っていないか、普段の生活がどの程度できているかということです。

そして、妊娠中だからといって、薬を使った治療を諦める必要もありません。

妊娠中でも使用できる薬があり、漢方薬を含めた治療の選択肢があります。

つわりは妊娠初期によくみられる症状ですが、重くなれば治療が必要になることもあります。

食事や水分が取れない、体重が減ってきた、日常生活が難しいといった場合には、次の妊婦健診まで無理に我慢せず、ご相談ください。

参考資料

・国立成育医療研究センター
妊娠と薬情報センター
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/

・国立成育医療研究センター
妊娠中のお薬Q&A
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/process/qa_ninshin.html

・医学書院『臨床婦人科産科』2022年76巻5号
「妊娠悪阻・唾液分泌過多に対する漢方療法―小半夏加茯苓湯などの処方の実際」
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1409210703

・診断と治療社『産科と婦人科』2023年90巻1号
「妊娠悪阻と六君子湯」
https://webview.isho.jp/journal/detail/pdf/10.34433/og.0000000010